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植物の方向性 ~植物の多様性が意味すること~

山に登山に行った方は、山の麓(フモト)と山頂では植生が徐々に違っているのに気づくはずです。1合目では、雑草や竹や常緑樹が所狭しと湧き上がり、少し上ると込み合った印象が薄れ、白樺など細めの高木が増えます、山頂に行くと低木が岩にしがみつくようにへばりついています。

 

この例は高度での植生遷移ですが、日本から中国、そしてロシアへ地球を真っ直ぐ北上していっても見られます。

 

植物というのは、数十億年、形を変えて地球全体に張りつこうとしているように見えます。

しかも、光合成という同じ活動をしているのにも関わらず、地球全体を1つの植物が独占することなく、多様な植物が存在しています。なぜでしょう??

 

植物の多様化のヒントは全ての植物にほぼ共通の活動にあります。

①光合成を行う

②根を張って、水・ミネラルを吸う

 

①について詳しく説明します。

光合成を行う事は植物にとって最大のテーマです。ここで、植物が挑んできた命題を植物になったつもりで考えてみます。太陽エネルギーを地球上の陸地の100m×100mの土地で吸収するのであれば、どうしたらエネルギー吸収量を最大にできるか?

思考能力はなくとも、植物は進化の歴史の中でこの命題に答えをだしてきました。

私は昔こう考えました。太陽光の入射角が直角(太陽からの距離が最短)となるように首が動くソーラーパネルが1つあれば最も効率よく光合成ができると。

 

しかし、光合成能力を持つ植物は構造物ではなく地球上の生き物であるため熱力学第ニ法則(エントロピー増大)に従い、必ず死を迎えなくてはなりません。もしソーラーパネル型の生き物が1つあるだけで、それが死んでしまったら、光合成によるエネルギーの蓄積はそこで停止してしまいます。

 

また、地球上では天変地異や雨、風、天敵生物など外的要因により、寿命ではなく、突発的な事象で枝や葉がおれてつかえなくなるリスクもあります。ここでも同様、パネル型植物だけでは壊れた時点で光合成量が減少する結果となります。

私の答えは不正解でした。

 

今、私たちが目にする100m×100mの森には、しなやかな枝を伸ばす木々と地面から湧くように生えている草の世界があり、それらの植物が生死を繰り返しています。

太陽光の角度が1日または1年を通して変わっても、そこには高さや葉の形が異なる植物がいて、必ず誰かがその光を吸収しています。それらの葉の間を抜けて光が地面に降り注いだ場所には、新しい芽が顔をだします。

 

このようにみると、多様な植生は地球上の複雑な環境条件において太陽光を最大限に吸収する戦略であるようです、各植物が特有の高さ、葉の形、種の発芽条件をもっているのはこれに起因するところが大きいと考えられます。

 

続いて②根を張って、水・ミネラルを吸うという植物の活動について詳しく見ていきます。

陸上植物にとって赤道直下と高緯度地域の太陽の光の成分は大きく変わりません。しかし、その土地での水の動きや水に溶けているミネラルの含量などは全く異なります。

 

下記の光合成の反応式をみると水は光合成を行う上で欠かせない要素であることが分ります。

 

 <光合成>6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6H2O + 6O2.

 

ミネラルは光合成や呼吸といった反応を実行する酵素に不可欠な要素です。

光合成に欠かせない水とミネラルは、季節、土の成分や母材、降水量、蒸発散量、微地形など多くの要因により変化します。

光の条件が同じであれば、その場所の水やミネラルをよりうまく利用した植物が活発に光合成を行いその植生の中でより優位になります。

光合成に係る酵素にはいろいろな種類がありますが、その場所で得られる限られたミネラルを組み合わせて光合成や生命維持を実行できる酵素を合成できてしまえば優位に成長できるわけです。

 

栄養分の乏しい日本の火山灰土の上に優位に侵入するススキですが、ヨーロッパではあまり広く分布していません。その代り、ヨーロッパの石灰岩由来の土の上には丈の短い草や芝が生えます。

 

水分が常にある沼には、根っこまで空気を運ぶことができるストロー状の茎をもつヨシがはえ、水分が乏しく、塩濃度の高い砂漠では、水分保持や浸透圧調整に優れたサボテンが生えます。

 

さらに、水とミネラルの動きの変遷は同じ地点であっても、いつでも同じとは限りません。例えば季節。日本では春には表面に養分が多い為浅い根の雑草が、夏には雨が多くなり、気温が上がることで土壌中の養分溶出量も増えるため、深い根をもつイネ科の雑草が繁茂します。
 

 

植物の形態(根のはり方、茎の太さ、高さなど)が多様なのは、ある環境条件(光、水、ミネラル)に特化した形態を進化させることで、その土地でのエネルギーの生産性を高めてきた結果です。そして、季節などによりその環境条件が変わると、すぐある植物は姿をけし、違う植物があらわれます。1つの植物からみると適者生存、生態系でみると常にエネルギーの生産を最大にするためのスペシャリストたちの全員リレーです。スペシャリストといってもがんばりやもいれば、癒し系、うっかり八平もいる、環境にはまりさえすれば、あとは自由です。でも誰が欠けても目標を達成できない1つのチーム、これが多様性をもった生態系です。

 

ここで改めて考えてみます、ある植物が本来の能力を発揮し、最大の光合成(エネルギー生産)を実現するのは、どんな条件でしょう?気温、ミネラル、水、、それぞれの条件について具体的な答えを出すことは難しいことではありません。

その植物の原産地がそのまま答えになります。原産地や産地の環境条件では、その植物が最大のパフォーマンスを行い、優位にたてる。

逆に言えば、ある土地が本来の能力を発揮し、最高の品質・収量を、最小コストで実現するのは、原植生に似た作物です。

在来種や古い品種が育てやすく、自分の土地に似たところで生産される農産物もまた育てやすい可能性が高いことは、一般論でもそうだと思われます。

しかし、気候条件や地理的条件が似た場所の植物もまたその土地に合うため、新しい作物を検討するとき、それを頭に入れておけば間違えるリスクのない選択ができます。

 

土地や作物に肥料や薬など、何かを与える前に、その土地と作物に大して何ものかを問う事が先です、これがひいては何を与えたらよいかを理解することにつながります。

 

 

 

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