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地理的要因と野菜の関係

 

これまで植物と植生の方向性について話してきたのですが、畑をやっている方からすると少し話が大きすぎると感じられたかもしれません。

しかし、植物自体の進化、植生遷移の方向性が太陽エネルギーを最大限に吸収できる植物体をその場にあるもの(土壌や水分条件)のなかから作りあげようとする方向にあることは、お皿の上の小松菜しかり、サラダのブロッコリーしかり、、


彼らの本分に合わないことをするとやはりうまく育てられないのです。
逆に彼らの本分がわかればこちらがうまく立ち回ってしっかり育てることができます。

 

ではこれまでの話を植物ではなく作物という言葉で言い換えます。
(原文で植物/植生だったところを作物としてます)

①植物の方向性より
”作物の形態(根のはり方、茎の太さ、高さなど)が多様なのは、ある環境条件(光、水、ミネラル)に
特化した形態を進化させることで、その土地でのエネルギーの生産性を高めてきた結果”

②植生の方向性より
”作物の変遷が起こるのはよりエネルギーを安定的な形で長期間保存する方向に向いているため”

作物と言い換えるだけでも十分意味が読み取れるはずです。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下に植物の方向性を決める環境要因と作物について図を使って説明していきます。

上の図は、山林から海辺までの断面、物理性、適合作物の変化を表しています。一番上の植生の変化は山林⇒草地⇒湿地(低地)⇒草地⇒浜をイメージしています。
その下には想定される土壌の構成と排水性を示しています。山岳地帯では岩石や粒径の大きいレキが多いので排水性が良いのですが、低地になると沖積土など河川により運ばれた粘土質の堆積物が主体となり排水性は悪くなります。さらに海へ向かうと特に太平洋側の地域では海流の関係で砂などが堆積するため再び排水性の良い条件へと変化していきます。

このような変遷に伴い、土の保肥力も変わります。粒径が粗い砂、レキには養分を保持する力がありません、養分が水に溶けて出て生きやすい土地と言えます。水が抜けやすいので通気性がよいとも言えます。一方低地に堆積した粘土などは養分保持力はあるものの水が抜けず、通気性も悪い土地です。

 

①のように作物の形態は環境適応の産物です。例えばキャベツがなぜ丸いのか?
平均気温が10度を下回るころから葉がしっかり丸まりはじめ、冬の初めまでにはしっかり丸いカタチをとります。春になるとそれを突き破ってとう立ちが始まり、花を咲かせます。葉がまるまらなければ霜にやられて凍結しているでしょう。
キャベツの根っこの形態も他の葉物と違いがあります。低地に分布する小松菜は真っ直ぐ細い根をのばしますが、キャベツ、レタスは明らかに根が太く、硬い、そして岩山の樹木のように分岐した根が土をつかむように発達しています。これはキャベツの祖先がハボタンだったことからも言えますが、比較的乾燥した地域の岩場などに張り付くように生息してきたからだと思われます。

この図で言えばキャベツが適合野菜となる場所は2か所出てきます。山側と海沿いの地域です。仮にこれを関東圏と置き換えると、ちょうど嬬恋キャベツの群馬と千葉の銚子にあたります。あまり知られていないかもしれませんが、銚子キャベツは春先のもっとも早い時期に市場にでまわるキャベツで銚子はキャベツ生産が盛んです。

他の例として、にんじんの形を説明します。
にんじんのをみて
どんな印象を受けるでしょう?私の印象は、やる気がない。でした。
いくら根菜と言っても、根っことしてのやる気が感じられないのです。キャベツや小松菜のように
養分や水分を吸うために主根を這わせたり、やっきになって細根をのばす、正に根性の根姿。をまったく意味がないと言っているようなつるつるの肌。なぜこのような形態の野菜が自然界で存在し得るのか?


これも地理環境に由来します。実はにんじんはセリ科、低地に分布するセリや三つ葉と同じ科に属します。低地というところは比較的肥沃で水持ちの良い土壌が分布しますが、一方ライバルとなる雑草や天敵の害虫も多い環境です。にんじんは8月の雨の多い時期に発芽し、小松菜の葉脈だけ残したような細いカタチをした固い葉を伸ばします、もちろんこれでは光合成量は限られていますが、にんじんは小松菜にくらべて2~3倍の時間をかけて成長していきます。おそらく雑草がまわりに繁茂していてもより長く光合成し続けることで葉面積のハンディを克服しているのかもしれません。しかも固い葉は害虫による食害も受けにくい、小松菜など一般の葉物野菜で8月撒きをして食害がないものはほとんどありません。

この生育初期には根による養分吸収が必須です、もちろんにんじんも生育初期の1~2か月間は細長い根の形をしており、ひげ根もいくつか見られます。その後可食部がふくれ始め、肌もきれいになります。

総じて根の発達が弱い背景には生育速度の遅さがあると思います。にんじんにとって根を伸ばして早く養分をかき集めることが大きなメリットにならないのでしょう、また低地土壌では排水が悪く、酸素量が限られているせいか地中の生き物(モグラ、ミミズ、あり)が草地に比べ少ないように思われます。動物の活動が低下する冬場に光合成産物を地中に貯蔵するというにんじんの戦略もこのような低地の特性とにんじんの特性がマッチしたからと言えます。


このように一つ一つの野菜の形と地理的な条件には密接な関係がありますが、この図について野菜に詳しい方がみれば、適合野菜としているものは長野から千葉までの特産品を横にならべただけと気づかれるかもしれません。実はそうなのです。
 

特産物というのはその土地で力をいれて作っている農産物と思っている方も多いかもしれませんが、実は昔からその土地で簡単につくれて、しかも特別おいしい農産物なのです。

私が就農した千葉ではにんじんは誰がやっても発芽は最低6、7割、可食部がしっかり太って、味も甘味があります。
長野の畑でまったく同じようなやり方でやると発芽率が悪く、根っこのようなにんじんができます。
まったくできないという事はないのですが、しっかり作るには技術、知識、資材が必要になります。
逆に千葉県でレタスをつくろうとすると大変苦労します。

言い換えると植物・植生の方向性に沿った作物がその土地の特産品である可能性が高いということです。

では特産品以外は向かないかと言うとそうではありません、あくまで植物の方向性がどういう方向にあるかが重要です。その方向性を決める手がかりとなるのが次の図です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

植物の方向性はその環境の性質によって規定されます。
最も支配的な要因が水の動きを支配する土壌の物理性、これに加えて気温や湿度も水の動きを左右するので重要な物理性になります。一番最初の図の土壌断面と排水性がこれにあたります。
この物理性により化学的な性質がある程度規定されてきます。それが養分量や保肥力です。
物理・化学的性質が決まると水とミネラルの動きがほぼ決定します、この動きに沿った微生物、植物が生物相を作り上げていきます。このような一連のつながりが生態系の形成へとつながっていきます。そうしてつくられた系はエネルギー蓄積が大きく次いで安定したもにになっていきます。このように安定した系はイメージとしては人体に近い恒常性(緩衝能)をもつものです。恒常性とは、その生き物の体内の状況が外的環境のいかんにかかわらず一定であろうとする性質で、病原体が侵入したときの発熱反応などがその例です。

ある土地で作物がこの生態系の一員として自然な存在であればあるほど作物は植生に近い存在となり、人為的な管理をそれほど必要とせずつくることができるという事になります。恐らくそれが特産品と呼ばれる農産物になると考えられます。

千葉県を例にとると、特産品のにんじん、これはセリ科に属するものです。わかりやすいのは同じセリ科の野菜を探してみることです。同じセリ科としてパクチーや三つ葉が挙げられますが三つ葉はもともと北西部で生産が盛んだったことが分っています。パクチーも私が栽培した中でとても簡単に栽培でき品質もよかった野菜の一つです。
 

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